嬰童無畏住心第三
本能のまま生きる羝羊から、社会に生きるため倫理を考えるようになった愚童の次は、天上世界への憧れが生じます。人はパンのみに生きるにあらずということを知るのです。イデアの世界だったり、形而上世界と言ったり、叡智的世界とも呼ばれる世界にあこがれるわけでして、要するに宗教意識の目覚めと言えます。ただ、まだこの段階では仏教には入りません。

この章の中心は、釈迦の教えから見たいわゆる外道思想16種類の紹介と、嬰童が憧れる天とは何か、いわゆる三界の諸天、すなわち、欲界、色界、無色界の説明がなされます。期せずして、この後に大々的に進んでいくことになる仏教世界の背景知識と言いますか、前提となる世界観の紹介になるという寸法です。

本章の終わりの方に、以下のような、注目すべき記述があります。天乗と言っても、浅略の意味と深秘の意味がある。浅い意味しか知らないと、生死に沈淪して解脱を得られないが、深い真言の実義を理解すれば、天、人、鬼畜の法門は皆これ秘密仏乗であると知る。

つまり、低レベルと思われ勝ちな、ここまでの三住心も、真言を理解した上で見直してみると密教の悟りに通じるとあります。